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1%の感動
先日、いつものように天ぷらとトッピングに使う宇和島の「えそちくわ」と「じゃこ天」を安岡蒲鉾さんに注文していたら、電話口のスタッフさんが「すみません、安岡が話したいみたいなんで電話代わります」という感じで若大将の安岡さんが出て、「ちょっと村井君、今度さ、YouTube撮らしてよ」と安岡さんらしい軽いノリでオファーをもらい、昨日と今日の2日間にわたって撮影が行われた。
愛媛県宇和島市の安岡蒲鉾さんは宇和島名物「じゃこ天」のトップランナーとしてずっと走り続けている。百貨店の四国物産展などの催事で何度も一緒になり、いつもトップの売上を涼しげに叩き出す姿を見てきた。地方の売れない現場でも、いつも安岡蒲鉾さんだけは大盛況で、なんで安岡さんだけこんなに売れるんだろう?と不思議に思った。
蒲鉾という商材が百貨店の客層にピッタリなのか?いろんな種類の蒲鉾を置いて選ぶ楽しさがあるからだろうか?実演でシズル感を演出しているからなのか?いや、実演がないところでも売っているよな。じゃあ何で?
僕がたどり着いた答えはシンプルなものだった。圧倒的な商品力だ。突き抜けた味だ。
「じゃこ天」はもちろん、どの蒲鉾を食べても突き抜けてうまい。他にはない感動がある。
飲食店はうまいのは当たり前。今の時代はどこに行ってもそこそこうまい。だからそれ以外で付加価値をつけなくてはならない。外食の関係者はよくこんな話をする。しかしそれは嘘だ。記憶に残らない月並みな味だから、それ以外で補うしかないというのが正解だ。感動を与えるような突き抜けた味を提供している飲食店が果たしてどれくらいあるのだろうか?僕は1%もないと思う。飲食店でもっとも大切なのは味だ。味でお客様の期待を超える感動を与えることができたら、それに勝るものはない。
1%しかない突き抜けた商品力。それはオリンピックに例えると金メダルのようなものかもしれない。オリンピック選手に選ばれるだけでもとてつもなくすごいことだが、金メダルをとれるのは1つの種目で1人だけ。ちなみに安岡蒲鉾さんは蒲鉾という種目で2度も農林水産大臣賞という金メダルを獲得している。
1%しかない突き抜けた味があればはどこに出しても、それを求めてお客様がやってきてくれる。ラーメンで言えば飯田商店さんがその最たる例だろう。わざわざそのためだけに時間とお金を費やしてもお構いなし、それ以上の感動があるレベル。
ではどうやったら1%に入れるのか?僕もずっと答えを探してきた。
YouTubeの撮影が始まった。安岡さんは撮影のスッタフさんと2人で段取りよく進めていく。持参してきた緑色のコンテナーにはこだわりの撮影機材がぎっしり。安岡さんは僕と一緒で形からこだわって入るタイプなんだろう。一眼レフカメラ・GoPro・照明・三脚・ジンバル・マイクなどが揃えてある。さらにはAIで作成した撮影スケジュールと台本まで用意していた。
今回の動画の尺はどれくらいですか?と僕が聞くと、そうやねぇ大体10分くらいやろか、と安岡さんが答えたので、それやったらあっという間に撮影が終わるなと安心した。
いざ撮影が始まると、想像を遥かに超えるこだわりっぷり。撮影スタッフの方が1台、安岡さんも1台、カメラを手持ちし、さらには定点カメラとしてGoProまで設置してきた。何度も何度もしつこく撮影する。いろんな角度から撮影を試す。昨日はすでに数時間撮影済みだったが、今日は朝8時から6時間くらいずっとカメラを回していた。これでいいんやろうか?もっと違う撮り方もいるんかな?あっ、これも抑えとかないけんかな?そんな感じで自問自答を繰り返し撮影を続ける。何度も何度も下書きを書いては消して書いては消してを繰り返しているようだった。
やっと撮影を終えた安岡さんは律儀にお店の外で並んでから入店し直し、スタッフさんとともにおうどんを食べた。と思ったら今度は食事の風景を撮影し始めた。ここまできたらもう執念だと感じた。
最後にお土産を購入して、うちのスタッフみんな一人一人に感謝を伝えて安岡さんは宇和島に帰って行った。
どうやったら1%に入れるのか?何かわかった気がした。
答えを求めてはいけないのだ。大切なのは答えではなく、問いだ。
現状に満足せず問い続けること。毎日同じことの繰り返しの中で、問い続けること。
撮影中、安岡さんのある言葉が印象に残った。
「うちの爺さんがね、とにかくお客様においしいものを食べてもらいたい。こればっかり言ってた」
味の追求、味へのこだわり。ここは絶対にブレない。
安岡蒲鉾さんは宇和島魚市場と八幡浜魚市場で水揚げされた生魚しか使わない。原材料が高騰した時は、価格を変えず常連のお客様のために赤字で販売したこともあった。途方もない手作業を当たり前のようにやっている。そして何よりも伝統を引き継ぎ大切に守っている。自分たちが今商売できているのは多くの先達の人たちのおかげだと感謝している。
僕は安岡さんの「じゃこ天」と「えそちくわ」をずっと使い続けるだろう。そして安岡さんをこれからもずっと追いかけていきたい。
