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運命の人
ヒエウ君が出演した動画が「NHK WORLD JAPAN」のベトナム版で公開された。
NHK関連で1人の手打ちうどん職人を主人公で取り上げたものは、おそらく社長が出演した2015年の「プロフェッショナル仕事の流儀」以来ではないだろうか?感慨深いというか、運命的なものすら感じてしまう。社長はもちろん、「谷や」の谷さん、「おうどん瀬戸晴れ」の古賀さん、そしてヒエウ君。これで僕がすげぇと感じた手打ちうどん職人はみんな世に出たことになる。
全員に共通することはただ一つ。最初から手打ちうどん職人を職業として選んだことだ。小学1年生からボクシングを始めた井上尚弥や4歳からサッカーを始めたメッシのようなもので、勝てるわけがない。
動画の中でヒエウ君が僕のことを師匠と呼び、その背中を追っていると言ってくれた。
僕は動画の中でヒエウ君を自分の後継者と言っている。僕が教えてきた職人は多くいるが、後継者はヒエウ君1人だけだ。僕が社長から受け取ったとてつもなく重いバトンを彼に渡すことを何年も前から決めている。いつかそのバトンをヒエウ君は未来の彼の弟子にしっかりと引き継いでくれたら本当に嬉しい。
去年だったか、たまたま見たYouTubeの動画の中で元週刊プロレス編集長のターザン山本が語った言葉が、僕がイメージしていた運命という概念を根底から覆し、今も強烈に印象に残っている。
「自分の運命、その道を作ってくれるのはあくまでも他者の存在である」
えっ?そうなの?運命は自分の意志で切り開くものじゃないの?ターザン山本のいつもの逆説が始まったよ。などと思ったが、言われてみればそうかもな、いや、考えれば考えるほど運命を切り開いてくれたのは他者の存在に他ならないと思うようになった。
僕の場合は、もちろん社長だ。社長との出会いがなかったら今の僕はない。もっと言えば社長と出会わなかった人生を想像すらできない。僕は社長と出会い、社長が作ってくれた道を気がついたら夢中になって走ってきた人生だった。そして気がついたら、うどん以外は考えられない人生になっていただけだ。
ヒエウ君にとって人生を決定づける運命的な出会いが僕だったのかもしれない。ヒエウ君も動画の中で「うどん以外の人生は考えられない」と言っていた。過去に戻ってもう1回同じことをやれと言われてもできない、そう確信をもって言える時、その言葉が出てくるのだと思う。
29歳のとき、すべてを失って東京から逃げるように香川に帰ってきた当時の僕は、本当に目の前が真っ暗だった。未来の自分を何も描くことができない。何をやりたいわけでもない。何者かになりたいわけでもない。気力のかけらもない。ただボーっと天井を見上げているだけの日々。俺の人生うまくいかねぇな、なんて迷路の中をぐるぐる回っていると、ふと思い浮かんだ。そう言えば昔、絶対に香川には帰らんけど、もし香川に帰ることがあったら手打ちうどんやってみたいな、なんて考えてたよな。わずかな希望という実体のないものが少しだけ僕の背中を押してくれた気がした。
そして僕は社長と出会った。想像を遥かに超えて厳しかった。そしてカッコよかった。無言の背中が優しかった。僕が出会ったすべての人の中で誰よりも社長が真剣勝負をしていた。香川にこんな人がおるんやとショックを受けた。夢中で毎日を店で過ごし、走り回った。目がまわってフラフラになった日々。生地場で慣れない足踏みをしているとき、湯気を上げながら鬼気迫るオーラを纏って手打ちする社長の背中を見て久しぶりに泣いた。頭をカナ鎚で殴られたような感覚があった。
バカヤロー!いつまでくよくよしてんだ!前を向け前を!今この瞬間を精一杯やれ!ただひたすら命をかけて手打ちする社長の背中が僕を奮い立たせてくれた。
この人についていったら俺の人生もなんとかなるかもしれない。そう思えたあの日、やっと迷路の出口が見つかり、僕の目の前に運命の道が作られたのかもしれない。僕が作ったのではない、社長が作ってくれた道だ。
あれからもうすぐ18年。本当になんとかなった。想像もしていなかった未来に僕はいる。
社長は僕の運命の人だ。僕の人生を変えてくれた人。本当に多くを与えてくれた。
社長から与えてもらったものを、僕が他の誰かに与えることが何よりもの恩返しだと思う。
そしてヒエウ君の運命の人が僕だとしたら、18年前の僕に間違ってなかったよと笑顔で伝えたい。

